ゆらゆらと揺れながら人の心を透かし視ては、惑わす。

それはまるで、ろうそくに灯る炎のように。





「好きだよ、せんせ」
「解りましたから、離してください」
「せんせは俺のこと嫌い?」
「今は仕事中ですから、それ以前の問題ですね」
「つれないね、



理事長室の扉の前、預かった書類を渡して帰りかけた私を後ろから抱きしめてその人は耳許で名前を囁く。
低い声が首筋をくすぐるのを唇を噛んでやり過ごしながら、胸の前に回された腕をほどいた。



これ以上抱きしめられていたら、自分が何を言ってしまうか解らない。
だからすぐに消す。
彼が心の奥に植え付けようとする、その炎を。



「つれないも何も教師と理事長、それだけの関係でしかないでしょう」



自分で言って自分で傷つくのを気付かないふりで、私は彼に向き直った。
すると薄い色合いの瞳が真っ直ぐに私を捕らえ、次の瞬間どこかで小さな音がする。



ああ、まただ。





消しても消しても、魔性の炎は何度でも胸の導火線に火をつけては心の底を映し出す。





「…今はまだ、な」



どうしてか、いつも通りにすぐ掻き消すことができない。
その人は縫い留められたように動けない私を満足そうに見つめ、小さく微笑いながら私の唇を指先で辿る。





閉じた瞼の裏で、ゆらりと炎が揺らめいた。









消 せ ど 燃 ゆ る 魔 性 の 火