たとえ描いた未来と違っても
いつだって 君の幸せを願っている
Drawing
3日連続で降っていた雨が止んで、天気予報でも”梅雨明け”という言葉が聞かれるようになった夏の初め。
僕は温んだ空気を入れ換えようと、ここ最近閉めきっていた窓を開けた。
夕立の後の空はペールブルーで、少しだけ橙色が混じっていて。
残っている切れぎれの雲の合間から、薄く光が射し込んでいた。
「あら、綺麗ね」
開けっぱなしにしておいた部屋のドアの向こうから、姉さんの声がした。
さっきまで下にいた彼女も、きっと窓を開けに上がってきたのだろう。
「・・・そうだね」
呟くように答えると、僕はじっと窓の外を見つめた。
”雨上がりの後の空って、綺麗だよね”
いつか、そう言った彼女とその空を眺めたことがあった。
やっぱりその時も梅雨時で、その日はいつもよりひどく雨が降っていて。
放課後、弱まるのを待とうと教室で窓の外を眺めながら、”部活がつぶれるのは少し嬉しいよね”と他愛のない会話をしていた。
しばらくすると雨音が小さくなって、そして止んだ。
灰色の雨雲がゆっくり散っていって、夕立の後の空を覗かせた。
「雨上がりの後の空って、綺麗だよね」
じっと外を眺めていたが、言った。
「そうだね。・・もちろん晴れた日の空が一番綺麗だけど、雨が上がった後の空は晴れの空にない何かがあるような気がする」
それには僕を見て、”私もそう思う”と微笑んだ。
「ねえ、周助。何年か後もこうやって二人でいて、こんな風に空を眺めてたりするかな?」
「そうだね、きっとそうしてるんじゃないかな?」
「・・・本当にそう思う?」
「うん」
「自信は?」
「・・・・なくもない、かな。は?」
「・・・・私もなくもない、かな」
そう言って顔を見合わせて笑いあった、雨上がりの夕暮れ。
あれからもう数年経って、それは”想い出”になってしまった。
もう僕の隣に彼女はいないし、彼女の隣に僕はいない。
確かな未来を描くには、あの頃の僕らはまだ少し幼かったのではないだろうかと今になって僕は思う。
現に、今互いが互いの傍に存在していないというその事実が、それを証明しているような気がして。
それは今でも、時々僕の心を締めつける。
けれどあの日、空を見つめながら一人ひっそりと願ったことがあった。
”どんなときでも、何があっても、彼女が幸せでありますように”
そう、二人で見たあの空に、願いをかけた。
「・・・・・・どうか、幸せで」
あの日の空が、僕の見つめているこの空に一瞬だけ重なって、そして消えた。
現在の僕らが、あの日描いた未来と違っても。
僕はいつだって、君の幸せを願っている・・・
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