もしも時間を止める魔法があるのなら、誰か時を止めて。 ――― 他の誰でもない、彼女のために。 T I M E L I M I T 「やっぱりここにいた」 「不二」 誰もいない放課後の音楽室は、彼女の場所。 ブラスバンド部なのをいいことに放課後はいつもここを占領している。 ここは、テニスコートが一望できる場所だから。 ・・・だけど多分もうすぐ、それも終わりを告げる。 「・・・どうして言わないの?」 窓の外、彼女の瞳の先を僕は見つめる。 知っているから。そのまっすぐな視線の先にあるものを。 「・・・もう、時間がないんだよ?」 彼がいなくなってしまうまで、もう時間がないんだ。 酷だと解っていても、思わずたたみかけるように問いかけてしまう。 どうして。 どうして。 彼女の想いを知る数少ない人間として、いつも側で見ていた。 だから全部知っている。 彼女の想いも、辛さも、全部全部。 「分かってる、つもりなのに・・・」 それでも君は壊すのが怖いと、言う。 「・・・・逃げるの?」 僕の言葉に、彼女は僕を振り返った。 揺れるその瞳を、強い力で僕は見つめる。 「だって、私はそれしか知らない」 悲しい仮定法しか知らない君のそれが弱さ。 誰も魔法使いにはなれないけれど、ねえ、誰か。 時間を止める魔法があるのならば、時を止めて。 タイムリミットまで、あと、もう少し。 |