僕は、知っている。
彼らの瞳の先に映るものを。












I know that...












「10分休憩!」

コートに響く手塚の声とともに、僕は日陰のベンチに座り込んだ。
今日は早めに音楽室を出てきたから文句こそ言われなかったものの、それでも何か言いたげな光が手塚の瞳に浮かんでいたのは見て取った。



いつも何をしているんだ、と。



言えるはずがない、というか言うつもりもないけれど、それよりも彼自身気づいていないのだろうか。
僕と彼女がいるのを捉える時の瞳と、彼女だけを捉える時の君の瞳は――――





「不二、何考えてるんだ?」





思考を遮るように目の前でノートを上下されて見上げると、覗きこんでいたのは四角い眼鏡の部の参謀。

「乾」
「手塚の方じっと見て。恋でもした?」
「…冗談言わないでよ。ちょっと考えごとをね」
「なるほど。
 そう言えば恋してるのは彼女の方だったっけ」



僕との間の「秘密」に
持ち前の洞察力と鋭さでそれに気づいた彼は唯一の例外としてそれを知っている。



「そんな怖い顔しなくたって、誰にも言わないよ。それより…」



ふっと途切れた言葉は、僕の視線の先に繋がる。



「手塚もなかなか、解り易いと思うんだけど」
「気づいてた?」
「そっちこそな」

僕が知っているのは当然、だとでも言うように乾が小さく笑った。



「あの眼はないよね。多分自覚なんてないだろうけど」
「同感」





そう、彼女を捉える時の彼の瞳は
普段の鋭く、ともすれば彼を冷たく見せてしまう眼差しとはまったく違う。





よく見ていなければ解らないほどだけれどほんの僅か、和らぐ。





「目は口ほどに・・・ってヤツか」
「良く言ったものだね。手塚にぴったりの言葉」



二人してひとしきり笑ったあとで、乾が言った。



「なあ、不二」
「なに?」
「賭けしないか?」
「賭け?」
「あの二人、どっちが先に好きだって言うか」
「うーん、そうだね・・・・・・
 っ、と」
「どうかした?」
「向こう。見てごらん」

乾は僕が指した方向に目を向ける。

「…おや」


フェンス越しに手塚と話しているの姿。

どうやら生徒会で珍しく問題が発生して、借り出された総務委員長の彼女が呼びに来させられたらしい。手塚もそこにいた大石に後を頼むと、彼女と校舎へ走っていった。

「知らぬは本人達ばかりなり」
「ね?賭けにならないと思うよ。あれじゃいつになるか」
「そうだな」
「でも見た?」
「見た。やっぱり自分で気づいてないな」



少しだけ和らいだ、あの瞳



「じゃあ、この話は白紙だな」
「もちろん」

そう笑って僕は二人が消えた方へ向き直る。

僕は、知っている。
君たちの瞳の先に映っているのは、お互いの姿なのだと。


それにしても……


「二人とも、鈍すぎ」
「致命的だな」

その呟きは、もうしばらく僕らの心の中だけに留めておく。