彼女は僕の眼の前に立っていた。





流れるような髪の毛、澄んだ深い色の瞳、
細くしなやかな指先…





身体がその場に両足を縫い止められてしまったように、動かない。





「 君は、誰・・・?」





首を横に振って、彼女は微笑む。
それからその手を伸ばして、
僕の胸へ飛び込む。





「―――…  大好き、よ





次の瞬間腕に感じたのは、微かなぬくもり。





そして風が吹く。
一瞬の嵐の後、眼の前には誰の姿もない。



掻き抱いたはずの身体があった場所には、満開の桜の花びらがただ舞い落ちてきただけだった。





腕に触れ、風に向けてそっと告げる。





「 …僕も、だよ 」










桜 幻 影 case:2