When you are sleeping














生徒会室の扉を2、3度、軽く叩いてみる。

――― 返事はない。


もう一度同じことを繰り返す。

――・・・ 返答、なし。






「・・・もう勝手に入ってやる」



重い書類を持たされて、居直り強盗よろしく開き直った私はそれでも小声で”失礼します”と言って扉を開けた。
やっぱり誰もいないか・・・と、視線をめぐらせたその瞬間。


私は持っていた書類を取り落としそうになった。


会長席に座っている手塚が、椅子に凭れて眠っていたから。









「――― 滅多に見られないもの、見たかも」


小声で呟きそっとドアを閉めて、机の上に頼まれた書類を置く。
総務委員長は仕事してるのに、何で会長は寝てるの?起きなさい!!(と、怒鳴ってやりたい。)



・・・まあ、仕方もないか。
体育祭に生徒総会、イベント目白押しのこの時期に忙しくないという方がおかしいのだから、疲れて眠たくもなるし。


私も寝たいけどね、という科白は心の中だけに留めておいて、
そっと彼の眠る椅子に近づく。

手塚は眼鏡をかけて、書類を膝の上に置いたままで眠っている。
きっちり閉じられた瞼のせいで、いつもより幼く見えるのは気のせいじゃないはず。


ん、 とわずかに身体が傾いたその仕草が新鮮でくすぐったくて、思わず小さく笑ってしまう。
そして、起こさないようにそっと彼の眼鏡を外す。


「掛けたままで寝たら危ないわよ、会長さん」



聞こえない程度の音程で口にして、私は引き寄せられるように彼の寝顔に見入った。
あ、睫毛長い。

そして、やっぱり何度見ても、端整な顔立ちをしてる。


今のうちに色々データを取っておこうか、と考えて、
それじゃまるでテニス部の四角眼鏡の参謀だ、と一人で苦く笑った。




「・・・さて、残りの仕事を片付けてきますか」

気づけば少し長居をしていたらしい。
気持ちを切り替えて、”よし”と向きを変えたその時。





「・・・・・・。人を散々見つめておいて何が”よし”なんだ?」


――――― え?




「・・・起きてたの?!」

まだ少し眠気を含んだ声に驚いて振り返ると、眼鏡を掛け直した手塚が肩を鳴らしていた。


「ついさっきな。何か視線を感じると思ったら・・・
 それにお前が書類を持ってくることになっていたから、だろうと思った」


・・・やられた。
どうしよう、一生の不覚・・・



時間を戻せるなら戻したいとできないことをぐるぐると考えていると、手塚がくすりと笑った。


「・・・何よ」
「いや、ずいぶん熱い視線だったと思ってな」
「!!」
「見惚れたか?」
「・・・・・・別に! 私、次の仕事があるから戻る」


早口でまくし立てて、私は思い切り生徒会室の扉を閉めた。
多分、耳まで赤いだろう。
・・・悪かったわね、どうせ見入ってましたよ、ええ!



まだくすくすと手塚の声が聴こえてくるような気がして、逃げるように私は廊下を駆け抜けた。
恥ずかしいような、腹ただしいような、くすぐったいような。
どこか言いようのない楽しさを抱えて。










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