その手の感触があまりにも心地いいから、もう少しだけ。














p l e a s a n t












頬に触れた冷たい感覚に、ゆっくり意識が浮上してくる。




(・・・あれ・・・?)




薄く開けたぼやけた瞳に映るのは、白い天井。
それから、見覚えのある端整な顔。



「・・・、気づいたか?」
「・・・手塚?」



どうしてここにいるの?と起き上がろうとすると、”まだ寝てろ”と押し戻される。
ぽす、ともう一度ベッドに沈んで見渡した、カーテンで仕切られたここは・・・保健室?






「・・・どうして私寝かされてるの?」


確か今日は期末の最終日で、部活も解禁だったはず。
だから今日から外練で、楽器持ってマーチングしてて――― あれ?



「私の楽器は!?」

今度こそ勢いよく起き上がると、頭がぐら、と傾いてまたベッドに沈みこむ。
そんな私を見ながら手塚はため息をついた。


「心配するな。鳴瀬が部室まで持って帰ってくれた」


出された同じ部活の親友の名前に、少しばかりほっとする。
あとで紗江にお礼言っとかなきゃ・・・。








「で、私はどうなったの?」
「・・・熱中症で倒れたから俺が運んだ」
「・・・・・・・・・はい?」

倒れた?手塚が運んだ??
一気に情報を整理できずにいると、手塚が丁寧に説明してくれる。




「吹奏楽部が丁度テニスコートの近くにさしかかった時にお前が倒れたらしい。
 いきなり鳴瀬が俺を呼びに来たから何かと思えば、お前が倒れてるだろう?」



そういえば、いきなりぐら、と来て身体が地面に引きつけられたような気がする・・・。

・・・だからって、よりにもよって手塚を呼ばなくたっていいでしょう!


私の想いを知っている彼女なりに気を利かせて(?)くれたのだろうけど、
状況がここまで情けなかったら、泣くに泣けない。






「・・・ごめんね、部活中」
よく見れば、当然手塚はレギュラージャージ姿のままで。

そう言ったら、手塚がふ、と笑った。



「今日は一番暑い日らしいからな。
 教室はエアコンが効いてるが、外との気温差も激しいし仕方ないだろう」


すると、いきなりすっと手塚の腕が伸びてきて、私の額に手を置いた。



「!」
「大分冷めたな。もう大丈夫だろうが、もう少し寝てろ」

ひやりとしたその感触にドキリとする。
そう言えばさっきも、この冷たさを感じた気がする。





だけど火照った額に、この感触がすごく心地いい。





「・・・手塚って、手、冷たいね」
「そうか?」
「手が冷たい人って心が・・・」
「・・・この間も同じことを不二に言われたからやめてくれ」


うんざり、というような手塚の表情に私はおかしくなって笑う。
確かに不二くんなら言いそうだ。





「冗談だってば。
 ・・・・・・ねえ、手塚」

「・・・何だ?」

「もうしばらく、このままでいてもらっていい?
 ・・・まだ、少し熱い」






これはきっともう少し一緒にいたいだけの、ただの口実だ。


だけど
この手があまりにも、冷たすぎるから。
その感触があまりにも、心地良すぎるから。





もう少しだけ猶予をください。








「・・・仕方ないな」

じゃあちゃんと目を閉じておけ、と言われて私は目を閉じた。
少しでも長く、この手を感じていられるように。














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