Long Time













街は人の洪水と光で溢れている。
誰かの楽しそうな声、クリスマス・ソング。
色んな音がそこら中に響き渡っている。


クリスマス・イヴの夜。
私は人波を掻き分けて、家へと向かっていた。


クリスマスも返上で仕事、と色々誘ってくれた友人達に言ったら、
「寂しくない?」

と、皆口を揃えて言ってきた。


別にね、寂しくないわけじゃない。
でも仕事があるのは仕方ないし、私はそれでいいと思ってるから、それでいい。
だって、一緒に過ごしたいと思う人がいないんだもの。

・・・いや、違う。
長い間、一緒に過ごしたいと思っていた人は、今は海を越えた向こうだ。



もう、何年になるだろう。
長い長い、片想い。



あの時、もし想いを伝えられていたら、今と結果は違ったのだろうか。



そんなことを考えていたら、ふわ、と何かが頬に触れた。

「雪だ!」

誰かの叫ぶ声で、私はそれが雪だと認識する。
そういえば、あの日もこんな風に雪が降っていた。













手塚とは、クラスメートだった。
高1の時同じクラスになって、一緒に学級委員にされたのが始まり。


それから段々話すようになって、好きな本や映画、音楽の趣味が似ていることが判明したり。
いつの間にか私たちは、”仲の良いクラスメート”になっていた。


2年でまた同じクラスになれた時は嬉しかった。
いろんな話をしたり、彼の部活を見にいったり。
確実に、私たちは親密になっていって
私が彼を好きだと自覚したのもその頃。

そして3年に上がって、クラスは分かれたけど生徒会でまた一緒になった。
仕事は大変だったけど、彼と仕事をするのは楽しかった。



想いを告げる機会はいくらでもあったはずなのに、私にはそれができなかった。

言ってしまって、今の関係が崩れてしまったら?
言葉が交わせなくなってしまったら?

そればかり考えて、想いを胸に閉じ込めていた。







けれど  想いを伝えることはないまま  その日は来た







「ドイツに行くんだって?」
「・・・ああ」
「どれくらい?」
「よく解らないが、長くかかるだろう」
「そっか・・・・頑張ってね。応援してるから」
「・・・ありがとう」





雪の降る日だった。
3年の2学期の終業式を待たずに、彼はドイツへと行ってしまった。




それから、時は流れて。
私は医学部を出て医者になり、彼は少しずつ有名なプレーヤーになっていった。



そして、現在。
私はただの医者で。
彼はもう、その名前を知らない人はいないくらい、有名で。


もう、私とは違う、遠い世界の人になってしまった。
でも、私はずっと

ずっと、彼が好きだ。
誰も知らないけれど、長い、長い間。



永遠の片想いになりかけた恋。









雪が、少しずつ少しずつ街を白く染めていく。
物思いにふけって、歩く早さが遅くなっていた私は自分を叱咤して歩調を元に戻した。


早く帰ろう。


あの日と同じに雪が降っているから。
クリスマスというこの時期に、どこか気分が浮き足立っているから。

だから、普段心の底に仕舞ってある想いが掻きたてられたんだと自分に言い訳をして、私は家へと急いだ。


―――・・・その時



『それでは次はスポーツ。まずは男子テニス界の手塚 国光さんの話題です』



立ち並ぶビルの一つの、外壁についている液晶の画面から、アナウンサーの声がそう告げた。


え・・・・?!


弾かれたように顔を上げると、画面に映っていたのは、紛れもなく彼の姿だった。


「・・・・っ!」



『手塚さんは来春の日本の大会で久々にこちらに戻ってこられるそうです。彼は全英オープンで・・・:』


流れる彼の映像。
素通りしていくアナウンサーの声。





私は立ちすくんだまま、画面を見上げて動けなかった。
涙が頬を伝うのに、それに構いもせずに、ただ画面を見つめた。






舞い散る雪。
あの日の彼の姿。


映像が記憶と重なって、そして消える。




私はしばらく動けずに、もう切り替わった画面を見つめたまま、泣いた。







神様、何に作用されて私は今日
胸の奥に封じていた想いを、開けてしまったのでしょうか・・・・