「不二子さん!!」





まるでスローモーションのように上空から地上へ真っ逆さまに落ちていく身体を追って、自分も急降下する。
どうにか空中で受け止め、しつこい追撃者に一発食らわせてから近くの廃ビルの屋上に彼女を横たえた。





「バカ! どうして僕なんか庇ったんだよ……!」
左胸から少し逸れたところに穿たれた傷からとめどなく赤い滴が滲んでいる。
止血しながら叫ぶ声が思わず掠れて、それに気づいたのか朱に染まった彼女の口元がふ、と緩んだ。





「……何を…言ってるの。『弟』の不始末は、『姉』の責任、でしょう……?」








――――――“あたくしを姉と思ってくださいね”
かつて彼女が僕に告げた言葉が、耳の奥にリフレインする。








わざと『弟』という単語を強調され、悔しさに唇を噛みしめた。
ああ、昔から全く変わらない。この人はずるい。
僕の想いを知っていて理解した上で――最期まで『姉』でいるつもりなのだ。
気持ちにケリをつけることも、投げ捨てることもさせてくれずに。
『弟』は『姉』の言うことを聞くものでしょう、と。そう微笑んで。






「……本当にひどい人だ。不二子さん――――
 いや、『姉さん』?」






引きつった唇は上手く笑みの形を作れているだろうか?
あの頃のように無邪気に笑うことはもうできないけれど。
せめて今この瞬間だけは、あなたの望む姿の僕がその瞳に映っていればいい――――






















・不二子ちゃんの最期、のイメージ。この後きっと「あたくしの分まで見届けるのよ」って言うんだと信じてる。