「ほな、またあとでな」
「じゃーなー、紫穂!」
「ええ、またあとでね」





別れの言葉を交わしてそれぞれ用事に散っていく背中を見送りながら手を振る。
自分も歩き出そうとしたところで、後ろから「最近の女子中学生の会話ってすっげえな」と声がかかった。





「センセイ!? いつからいたの!?」
「や、今だけど。話が盛り上がってるみたいだったから気づかなかったろ? 向こうまで響いてきてたぜ」



そういえばここが廊下だということを忘れて思い切りクラスメイトたちの恋愛話に花を咲かせてしまっていた。
あまり人が通らないところだからと油断していたのもあるかもしれない。
次から気をつけなくちゃ、と考えていると、隣に立った男が笑みを浮かべてこちらを見ていた。
チェシャ猫みたいな、にたりとしたいやらしい笑顔だ。



「……なによ、その顔」
「いやいや。さすが『恋愛耳年増』の紫穂ちゃんは言うことが違うなーと思ってさ」
「聞いてたの?」
「だから聞こえたんだって」
「立ち聞き最低ね。そ・れ・に! センセイみたいにフラフラしてるより耳年増な方がずっと――」





マシ、と最後まで言い切る前に突然目の前にずいとチョコレートが差し出される。
疑問に思う間もなく唇に押し込まれ、一連の流れに抗えずそのまま齧ってしまった。
直後、口の中に広がったあまりの苦味に驚いてせき込んでしまう。





「に、苦……! センセイ、これ、なに!?」
「俺の非常食、カカオ分85%のチョコ。
 なーんだ、エラそうなこと言っててもこの味がわかんねーようじゃまだまだお子様だな」





(自分だってやってること小学生レベルじゃない!!)





ふふんと得意げな表情の男を涙目で睨みつけるが効果はなく、その口角がさらに愉しげに吊り上がっただけだった。















・紫穂ちゃんの口にチョコを押し込む賢木が書きたかっただけ(笑)苦いチョコは私の趣味です。大好き。