私たちは時の迷い子。
自分が本来在るべき時間の流れに己の意志で抗い取り残され、その軸から外れた。
いつか来たるべき瞬間のために過去を見守り、未来を見はるかし、そして現在を生き抜くことが、理を歪めた代償だ。







































花枝ちゃんとじーさんが病室に戻っていき、広い空間に再び沈黙と闇が落ちる。
窓を打ちつける雨は止むどころか一層激しさを増す。ガラスが時折雷光を反射し、唇を引き結んだ自分の顔を映し出した。






(……本当、あんなものをまだ後生大事に……)






視線の先に浮かび上がるのは、過ぎ去った日々の残像。
あの日に囚われたままストップしている男のことを思い、小さく息を吐く。
来し方は同じであった。だが途中で分かたれた道はもう交わることはないだろう。 ――利害が一致した場合の一時的なものはあるにせよ。
行く末は解らない。あの未来のように例えどんなに確率の高い予知であろうと、本当に何が起こり得るかは誰も知るところではないのだから。






それを見届けるために私たちは時間の摂理に逆らったのではなかったか。
けれどあの男は過去と未来に片腕ずつを引かれ、今を生きることをやめてしまった。



絡みつく枷を振りほどくことをせず、現在に手を伸ばそうとしない男に感じるのは憤りかそれとも憐憫か。
いずれにせよ見せられたジョーカーは私を驚かせるには十分で、共有してしまった以上放っておくことはできない事実は動かない。








『姉さん』







遠くで雷鳴が轟く。
見つめていた虚空に漂っていた残像が、眩むような光に一瞬白く消え失せた空間にあどけない少年の微笑みをかたどって、消えた。










「……本当に、バカな子」










歴史に仮定は存在しない。
選んできたこの道もすでにその一部に組み込まれているという真実こそが、時の迷い子であることの証明に他ならないのだから。









零れ落ちた呟きに答えるものは、未だ止まぬ雨と風だけだった。