その名前は俺にとっての誇りであり、魔法の呪文だ。
幾度も胸中で唱えてはふらつく自分を立て直してきたけれど、口にはしないと決めていた。
もう一度、会うまでは。





(……起き上がることすらままならねえって、どうよ?)





戦場では一瞬の隙が命取りだ。爆風に巻き込まれたと思った時にはもう遅かった。
地面に這いつくばるように投げ出された身体は、いっそ面白いほど言うことを聞かない。
自嘲する間に傷口に宛がっていた手が力を失って落ちる。
多分これ以上はいかに己の生体コントロールを以てしても無駄だろう。





(情けない野郎で、ごめんな)





思考がまるで泥のように重く、深い場所へ沈んでいく。
それでも閉じた瞼の裏に過るのは、記憶の中の鮮やかな姿で。






“――――――センセイ!”





耳に残るその声がどこか遠くで響いた気がして、わずかな意識が唇に笑みの形を描かせる。





許してほしい。
最後にひとつ、ただありのままに口にできる言葉を音にすることを。


許してほしい。
顔を見て、呼べないことを。




 「……紫穂……」 





そう。それは終わりなんかない、美しい君の名前。




















・口に出すと弱くなってしまうから、本人を目の前にするまでは言わないと決めていたのに。 
 inspired by:"YOUR NAME NEVER GONE"(CHEMISTRY)